その後、山口教授の指導の下で、大学院資料研究の授業の教材として浅田家文書が 利用されはじめ、1963年度から64年度にかけては、文書のうち一紙物(書状や 証文など)を除いた冊子物についての整理と若干の分析が試みられた。参加したのは、 当時東京大学文学部助手であった大口勇次郎、東京大学大学院の博士課程に在籍して いた林玲子、高村直助、村上はつと石井寛治の5人であった。今回、インターネット を介して公開される目録は、そのときの冊子ものの整理を基礎とし、それに若干の修 正を施して作成された『浅田家文書仮目録』(東京大学経済学部図書館文書室、19 86年刊)と、その後、文書室において、上記目録の作成を機会に大口、林、石井ら を中心に結成された浅田家文書研究会の協力を得て整理した一紙物の目録である『浅 田家文書仮目録(続)』とを基礎としている。前者は冊子物約3000点、後者は一 紙物約1万4000点を収録しているが、インターネットでの公開に際しては、両者 を統合し冊子物・一紙物の区別なく検索が出来るようになっている。
浅田家文書は、このほかにも国立史料館に200点余り所蔵されており、さらに、 山城町史編纂の過程で新たに発見された分もある.町史編纂に当っている山城町教育 委員会の調査によると、東京大学経済学部と国立史料館の所蔵文書は本宅である浅田 (北)家文書であることが判明し、隠居宅である浅田(南)家からも別個に2000点近 い文書が発見された。経済学部文書室には、浅田(南)家と同町教育委員会の御好意に より、浅田(南)家文書フィルムの複製分13リールが納められている。続いて、19 85年9月にわれわれが浅田(北)家を訪問したことが一つの契機となって、浅田(北) 家からも茶箱3個分程の未整理文書が発見され、山城町史編纂委員会の手によって整 理が行われた。そのほか、天理大学図書館などにも若干所蔵されているという話が伝 えられているが、未確認である。
以上、経済学部所蔵分を中心とする浅田家文書の所在と整理の状況を概観したが、 同家は単に西法花野村の庄屋であるだけでなく、18世紀には近隣の数か村の上にも 立つ大庄屋となるため、同家文書を通じてかなり広い範囲の史実を探ることが可能で はないかと思われる。周知のとおり、この地域は山城国一揆の基盤をなしたところで あり、江戸時代に入ると先進的な棉作地帯として発展する。そして、幕末開港を契機 に製茶地帯として急激な変貌を示す地域なのであって、畿内型農村のひとつの典型例 とみることも可能であろう。慶安3年(1650)には持高25石余にすぎなかった浅 田家が、宝永1年(1704)には100石をこえる地主=豪農へと急成長すろ秘密は どこにあったのか。これまで全く分析されたことのなかった浅田家文書から、われわ れは数多くの新しい知見を得ることができるのではないかと期待される。
この目録は、そうした本格的分析のための前提作業として作成したものである。わ れわれが浅田家文書の本格的整理に着手してから、10年を超える歳月が流れた。こ の間、とくに1986年以来の浅田家文書研究会メンパーによる調査・分析を通じて、 浅田家文書が畿内型農村の近世における成立と展開、幕末開港後における変容、につ いての貴重な情報を無数に含むものであることが判明しつつある。その研究成果のい くつかはすでに公刊されており、また、最近山城町役場から刊行された『山城町史・ 本文編』(1987年)、『山城町史・史料編』(1990年)においても、本学部所蔵 の浅田家文書が多数利用され、紹介されている。この目録の公開により、浅田家文書 がさらに多くの研究者によって分析され、近年やや停滞気味に思われる近世・近代の 農村経済史研究が活性化するために役立つことを期待するものである。
また、小分類については、冊子物と一紙物とでは必ずしも同一ではなく、整理過程 で試行錯誤を重ねながら作られたもので、資料を配列するに際して、同種の資料群ま とまって配架され、目録上でもまとまって記載されることを重視したものとなってい る。
この小分類は、検索結果には表示されないが、検索に際して有効な情報となってい るので、たとえば、冊子物の小分類にある「C-11 秤改」と一紙物の目録にある 「A-4 秤改」に関連した情報を検索するために、検索語句として「秤」「秤改」な どを入力することによって、表示される情報に該当語句が含まれなくても、この2つ の小分類に分類されている資料名は全て表示されるようになっている。
冊子物分類表 A 支配 A−1 領主 A−2 触書 A−3 巡見及領主通行 B 土地 B−1 高反別 B−2 堤外新開高反別 B−3 田畑売買 B−4 村高 B−5 地租改正 B−6 荒地調 C 年貢 C−1 年貢免割 C−2 年貢取立 C−3 未進・延米・定免 C−4 不作毛見 C−5 引方帳 C−6 借付帳 C−7 堤外新開 C−8 振越帳 C−9 国割帳 C−10 諸役 C−11 秤改 C−12 御蔵払米 C−13 年貢雑 C−14 元和・寛永期年貢 C−15 所得調査 D 村 D−1 村明細 D−2 村法度・役人 D−3 庄屋万覚 D−4 村政一般 D−5 諸願書 D−6 諸入用 D−7 飛脚帳 D−8 義倉 D−9 金銀銭 D−10 鉄炮書上 D−11 産業 D−12 千三百石関係等 D−13 拝借銀米・貸上銀 D−14 講銀 E 戸口 E−1 宗門人別帳 E−2 五入組帳 E−3 奉公人関係 E−4 戸口関係 F 用水 F−1 国役普請等 F−2 溜他 F−3 井戸・悪水樋 F−4 土砂留 F−5 用水普請 F−6 洪水・大雨被害 G 山 H 宗教 I 私経営 I−1 浅田家持高 I−2 小作経営 I−3 手作経営 I−4 日用・小遣・日記 I−5 金銭貸借出入帳 I−6 諸入用覚 I−7 算用帳・店卸帳 I−8 冠婚葬祭 1−9 京都伏見年礼 I−10 雑 J 絵図 一紙物分類表 A 支配 A−1 触書・廻状・達・廻章 A−2 巡見 A−3 通行・受取 A−4 秤改 A−5 雑 B 土地 B−1村高・石高・田畑改 B−2 田畑売買・貸借 B−3 地租改正 C 年貢 C−1 年貢免状・免札 C−2 毛見 C−3 蔵米 C−4 年貢・夫役・租税−般 D 村 D−1 村法度 D−2 諸願書・届書・口上書 D−3 村財政(金銀米請取・諸入用) D−4 金銀・取引出入 D−5 諸事件 D−6 義倉・社倉・下行米 D−7 拝借銀米・貸上銀・御用銀 D−8講 D−9 産業・商取引 D−10 学校 D−11 村政一般 D−12 村明細・村案内 E 戸口 E−1 奉公入 E‐2 無足人 E−3 戸口関係 F 用水・水運 F−1 普請 F‐2水損 F−3 用水 F−4 水運 G 山 H 宗教 I 私経営 I−1 家 I‐2 年貢 I−3経営 I−4 生活 I−5 雑 J 絵図 K 金銀借用・預り証文 L 書状
ただし、(L)書状の表題箇所には「発信人→受信人」を記し、そこに付したた(地名) により発信場所等を示した。
*原史料に記載のない場合には、表題については、( )を付して内容に即して表示 し、年次については、推定によるときには、( )を付した。
史料番号は目録上での検索および所蔵保管の配架のために付された番号で、一紙 物では、冊子物目録のそれと区別するために10001番から始まっている。分類番号は 文書史料の大分類を示すアルファベット記号と収蔵配列を示す番号から構成され、文 書室での史料検索のためのものである。